【0030】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例】
【0031】
A.倍化ESマウスの出産率の比較
本実験の目的は、複数の4倍体胚を用いることによりESマウスの作成効率の向上を図ることである。そのためにまず、正常胚を用いて、倍化胚(3xおよび5x)を作成し、その発生能を解析した。その結果、3x正常胚では正常な範囲内で産仔を得ることに成功したが(50%;8/16)、5x正常胚からは産仔を得るにいたらなかった(0%;0/8)。以上の結果から、過剰な胚の数は発生能を障害することが示唆された。この結果を元に本実験では1xから3xの4倍体胚とES細胞のキメラ胚を作成し、ESマウスの出産率を比較検討した。
【0032】
B.倍化4倍体胚の細胞数の解析
ESマウスの作成の前に、まず、倍化した4倍体胚の細胞数が実際に増加しているのかを検討した。授精後96時間の1xから3xの4倍体胚をそれぞれ10個ずつPIとCdx2の2重染色を行った。以前の報告(Koizumi N, Fukuta K. Preimplantation development of tetraploid mouse embryo produced by cytochalasin B. Exp Anim. 1995;44(2):105-109)と一致して、1x4倍体胚では正常胚(1x2n)と比較して総細胞数の減少が認められた(表1および図1A-A”、D-D”)。一方で、2x4倍体胚および3x4倍体胚では、総細胞数の増加が確認された(表1および図1B-B”、C-C”)。これらの2x4倍体胚および3x4倍体胚では、TE細胞数およびICM細胞数もそれぞれ増加していることが示された(表1)。また、3x4倍体胚を抗Oct3/4抗体で免疫染色したところ、正常にICM細胞が染色された(図1E-E”)。以上の結果から、胚盤胞期の倍化4倍体胚では、予想通り細胞数が増加しており(表1)、ICMなどへの分化も正常に行われることが証明された(図1E-E”)。
(表1.倍化4倍体胚の細胞数の解析)
【表1】
【0033】
C.倍化4倍体胚を用いたESマウスの作成効率の検討
先の実験で倍化4倍体胚の細胞数の増加が確認されたので、次にESマウスの作成効率の検討を行った。使用したES細胞は、一般的なES細胞株であるE14、ntES細胞として129B6F1G1(GFP陽性)およびBDmt2、ならびに近交系由来のES細胞株としてDFC3H(合計10株をランダムに使用)を用いた。図2に示したように、GFPを発現する129B6F1G1を用いてキメラ胚を作成したところ、3x4倍体胚にES細胞が正常に取り込まれることが示された(図2D-F)。
【0034】
次に、各ES細胞と1xないし3xの4倍体胚とのキメラ胚を作成し、胚移植後の発生能の検討を行った。1xおよび2x4倍体胚をホスト胚として用いた場合では、3系統のES細胞(E14、129B6F1G1およびBDmt2)は、ESマウスの作成効率が約1-3%と非常に低頻度であった(表2)。一方、3x4倍体胚を用いた場合では、その作成効率が約2.5-8.5倍に向上した(8.6%:表2)。また、従来作成が困難と考えられていた近交系由来のESマウスでも、3x4倍体胚を用いることにより約7%の成功率で作成可能であることが示された(表2)。
【0035】
以上の結果から、2x4倍体胚では正常胚と同程度の細胞数を有するが(表1)、ESマウスの作成効率は、3x4倍体胚を使用したものが最も効率がよく(表2)、従来法の1xもしくは2x4倍体胚では不十分であることが示された。
(表2.倍化4倍体胚を用いたESマウスの作成効率の検討)
【表2】
*:E14;一般的に用いられているES細胞。129B6F1G1およびBDmt2;ntES細胞。DFC3H;近交系由来ntES細胞。
【0036】
D.倍化4倍体胚より作成された新生仔ESマウスの解析
ESマウスは奇形仔の頻度が高いことが知られているので、次に3x4倍体胚より作成されたESマウスの表現型を観察した。3x4倍体胚由来のESマウスは、体重・胎盤重量とも1xまたは2x4倍体胚由来のESマウスと同程度であった(表3)。また開眼・腹部ヘルニア・巨大産仔の出現率なども差は認められなかった(表3)。以上の結果から、3x4倍体胚を用いた場合であってもESマウスの奇形頻度は、少なくとも従来のESマウスと同程度であることが示された。
【0037】
ESマウスの最大の特徴は、体を構成しているほぼ全ての細胞がES細胞由来であるという点である。表1に示したように、3x4倍体胚では、総細胞数のみならず、体を構成しうるICM細胞も増加している。最後に、3x4倍体胚由来のESマウスが実際にES細胞由来の細胞で構成されているかを検討した。
【0038】
ホストである4倍体胚由来の細胞とES細胞を区別するため、ES細胞にはE14、ホストにはICRGFP由来の4倍体胚を使用した。このことにより、4倍体胚由来の細胞がGFPを発現するため、ESマウスにて4倍体由来の細胞を容易に確認することが可能となる。この方法を用いて、3x4倍体胚から合計15匹のESマウスを作成し、蛍光顕微鏡を用いて観察を行った。図3に示すように、得られた15匹すべてにおいて、胎盤でGFPが発現し、産仔では発現していなかった(図3A-C)。これらの結果から、3x4倍体胚を使用してもESマウスに4倍体胚由来の細胞が大きく混入する可能性は低いと考えられる。次に、より詳細な解析を行うため、フローサイトメトリーによるGFP細胞の検出を行った。1xおよび3x4倍体胚より作成したESマウスをそれぞれ2匹ずつ使用し、脳および肝臓におけるGFP陽性細胞を検出した。解析の結果、1xおよび3x4
【0039】
倍体胚由来のESマウスとも、4倍体胚由来のGFP細胞の混入率は1%未満であった。
以上の結果から、3x4倍体胚を用いたESマウスは、従来法に由来するESマウスと同様に、ほぼ全ての構成細胞がES細胞由来であることが証明された。
(表3、ESマウスの表現型の解析)
【表3】
a平均±SD(g)。
bOE:開眼、AH:腹部ヘルニア、LO:巨大産仔、OELO:開眼および巨大産仔を併発した仔、OEAH:開眼および腹部ヘルニアを併発した仔。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、トランスジェニック動物やノックアウト動物のごとき遺伝子改変非ヒト動物を効率的に作成する方法およびこの方法により作成された遺伝子改変非ヒト動物を提供する。そのため、病理学的な研究や新治療法の開発に用いる実験動物の製造、新薬の開発をはじめとする多くの産業分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、倍化4倍体胚の細胞数の解析結果を示す。A-Eは1xから3x4倍体胚および正常胚(1x2n)をPI染色した写真、A’-D’は1xから3x4倍体胚および正常胚(1x2n)をCdx2で免疫染色した写真、A”-D”はそれぞれの写真を合成した写真である。A-A”は1x4倍体胚、B-B”は2x4倍体胚、C-C”は3x4倍体胚、D-D”は正常胚(1x2n)、E-E”は3x4倍体胚をPI(E)、Oct3/4 (E’)で染色した写真、およびその合成写真をE”として示した。スケールバー:A”-D”100μm。E”200μm。
【図2】図2は、129B6F1G1を用いた4倍体胚とのキメラ胚の作成を示す。A-Cは1x4倍体胚とES細胞(129B6F1G)のキメラ胚、D-Fは3xx4倍体胚とES細胞(129B6F1G)のキメラ胚を示す。A、Dは可視光写真、B、Eは蛍光写真、C、Fはそれぞれの合成写真である。スケールバー:200μm。
【図3】図3は、3x4倍体胚から作出されたESマウスの解析である。(A-C)GFPを発現する3x4倍体胚とE14 ES細胞を用いたESマウスである。(A)可視光写真を示す。(B)蛍光写真を示す。(C)AとBの合成写真を示す。胎盤においてのみ4倍体胚由来(GFP陽性)の細胞が確認される。(D、E)フローサイトメトリーによる解析結果である。1x4倍体胚由来のESマウス(D)および3x4倍体胚由来のESマウス(E)の脳(左パネル)および肝臓(右パネル)におけるGFP陽性細胞の存在頻度を解析した。1xおよび3x4倍体胚由来のESマウスともGFP陽性細胞の存在頻度は1%未満であった。
【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
【出願日】
平成20年1月4日(2008.1.4)
【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100116311
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 忠行
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
【公開番号】
特開2009-159878(P2009-159878A)
【公開日】
平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願番号】
特願2008-89(P2008-89)
- 2019/05/14(火) 11:31:47|
- 非ヒトES動物
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